せき(咳)が出るのはなぜ? 原因と対処法を紹介

せき(咳)が出て止まらないとき、周りから心配されたり、ときには冷たい視線を感じたりすることもあるでしょう。とはいえ、せきを自分の意思で止めるのは難しいものです。そのため、他の症状はないのに、せきが出ているために外出を控えなければいけないというケースもあります。この記事では、そんな厄介なせきの原因や、つらいせきを和らげる対処法を紹介します。
- 監修
- 函館五稜郭病院 臨床顧問
加地 正英先生
目次
せき(咳)が出るメカニズムとその影響
せき(咳)の分類方法。風邪のときのせきは?
せき(咳)が出る主な病気
つらいせき(咳)を和らげるための対処法
せき(咳)が出る原因を理解して正しく対処しよう
せき(咳)が出る
メカニズムとその影響
せき(咳)が出るのは体を守るために必要な反応
体には、体内に侵入しようとする異物から守るための防御反応が備わっています。例えば、鼻にほこりが入ったり温度差を感じたりしたときに生じるくしゃみや、目にゴミが入ったときに瞬きをしたり涙が出たりすることなどです。これらは反射的に起きるものなので、自分の意思で止めるのはかなり困難です。
せきも多くはそのような反射的な防御反応の一つで、気道に入り込んだ異物を排出するために反射的に生じます。
のどから肺へと続く呼吸器は、1日に約1万リットルの空気を吸い込んでいて、その空気には病原微生物などの異物が含まれています。そのため、呼吸器は全身の臓器の中で最も感染を起こしやすい臓器と言われており、そのためせきの反射や、たん(痰)の分泌などの防御機構が備わっていると考えられます。たんもやはり、のどから気道(肺へ続く空気の通り道)にある異物を絡めとるために分泌されるもので、呼吸器の防御機構の一つです。
体を守るために必要なせき(咳)が心身に悪影響を及ぼすことも
このように、せきの多くは体の防御反応として生じるものであるため、せきの治療の原則は、体に入り込もうとしている異物(大半はウイルスで一部は細菌)を取り除くことです。ただ、せきという症状そのものが心身に悪影響を及ぼすこともあるので、せきの原因に対する治療に加え、せきを止めるという治療が必要なこともあります。
実際、せきは1回に2kcalを消費するとされていて、100回すれば200kcal。これは、成人が1日に必要とするエネルギー量の約10分の1に相当し、それほどの体力を消耗してしまうということです。せきによる体力消耗が免疫機能の低下を招いて、結果として風邪などの病気が悪化してしまう可能性もあります。
また、コロナ以降は特に公共の場でせき込むと、迷惑そうな反応をされることも増えており、せきのせいで社会活動がしにくくなるというストレスも高まっているようです。
長引くせき(咳)には要注意
ここまで「せきの多くは体に備わっている防御反応」と説明してきました。しかし、防御反応とはいえない、より注意が必要なせきもあります。特に、長引く咳にはそのようなせきが多い傾向があるので要注意です。
具体的には、アレルギーが関係した病気(喘息(ぜんそく)など)や鼻炎、結核や肺炎、肺の生活習慣病といわれるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、胃酸の逆流によるもの、肺がん、薬の副作用などによるせきです。また、長引くせきは原因が一つではなく、複数の原因が重複していることも珍しくありません。
せき(咳)の分類方法。
風邪のときのせきは?
せきは、かかりつけ医を訪れる患者さんが訴える症状の中で最も多い症状と言われています。それだけに、原因もいろいろ考えられます。
多くは感染症、特に「風邪」の症状としてのせきではあるものの、中には感染症とは異なる原因のせきもあります。せきの分類方法などを知り、原因の見当をつける参考にしましょう。
せき(咳)の持続期間による分類
せきの原因の見当をつけるための一つ目の尺度は、症状の持続時間です。
医学的には、持続期間が3週間未満の場合を「急性咳嗽(きゅうせいがいそう)」、3~8週間を「遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)」、8週間以上を「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」と分類します。
- ・急性のせき(咳)
- 急性のせきの多くは感染症によるもので、特にウイルス性の呼吸器感染症が多く、その大半は、いわゆる「風邪」です。一方、ウイルス性ではなく細菌性の呼吸器感染症としては、マイコプラズマ、百日咳、クラミジアなどが挙げられます。
- ・遷延性のせき(咳)や慢性のせき(咳)
- 遷延性のせきは、感染症による急性のせきが長引いている場合(感染後咳嗽)と、感染症ではないせきが入り混じっています。そして慢性のせきとなると、感染症のせきが占める割合はより低下します。なお、感染後咳嗽とは、感染症が治った後にせきだけ長引いている状態のことで、遷延性のせきの48%を占めるという研究報告*もあります。
感染症ではないせきの原因として、アレルギーが関係している呼吸器疾患(喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔炎など)、その他の呼吸器疾患(COPD、肺がんなど)、呼吸器以外の疾患(胃食道逆流症など)、および、薬の副作用(例えば一部の高血圧用薬)などが挙げられます。
たん(痰)を伴うかどうかでの分類
せきの原因の見当をつけるためのもう一つの尺度は、せきにたんが伴うか否かという違いです。医学的に、たんを伴うせきは「湿性咳嗽」、たんを伴わないせきは「乾性咳嗽」と呼ばれます。
- ・たん(痰)を伴うせき(咳)
- せきは風邪の主症状の一つとしてよく現れます。そして、せきと並んでたんも風邪の主症状の一つであり、せきを伴うことが少なくありません。
たんを伴う湿性咳嗽は、たんのない乾性咳嗽よりも、気道の炎症がより強く起きていたり、細菌の感染が起きていたりすることが多いと考えられています。それだけに、たんを伴うせきは医師の診察を受ける必要性が高いと言えます。また、赤や緑など、色がついたたんが出る場合は、より早目の受診が必要と考えられます。 - ・たん(痰)を伴わないせき咳
- 一方、たんを伴わない乾性咳嗽は、感染後咳嗽やアレルギーが関係しているせきが多いようです。また、胃食道逆流症や、一部の高血圧用薬の副作用など、呼吸器とは別の原因によって乾性咳嗽が生じることもあります。ただ、湿性咳嗽を生じる病気(例えばマイコプラズマ肺炎)の初期に、乾性咳嗽がみられることもあります。また長引く場合は肺がんなどが疑われる場合もあり、医師の診療を受ける必要があります。
風邪とせき(咳)の関係
風邪とは、病原性微生物(主にウイルス)が体内に侵入して、上気道(鼻から喉にかけての空気の通り道)を中心に炎症を起こす感染症のことです。医学的には風邪を「急性上気道炎」と呼ぶこともあります。
風邪の原因となるウイルスは約200種類もあると言われていて、どのウイルスが感染したかによって少しずつ症状が異なります。ただし、基本的には上気道に炎症が起こる病気のために、せきやのどの痛み、鼻水・鼻づまりといった上気道の症状が現れやすく、これら三つの症状以外には、発熱や倦怠感、関節痛や結膜炎などもみられる場合もあります。
せき(咳)が出る主な病気
せきを原因別にみたときに考えられる、代表的な病気をピックアップして解説します。

主にウイルスによる呼吸器の感染症
ウイルスによる呼吸器の感染症では、急性のせきで、たんを伴わないせきが現れやすい傾向があります。ただし、原因の病気がほとんど治っているのにせきだけ残っていることや、反対に病気をこじらせて、気管支炎や肺炎になってせきが長引くこともあります。
- ・風邪
- 普通感冒、急性上気道炎、あるいは風邪症候群などと呼ばれる感染症です。急性のせきの原因として最多であり、原因となるウイルスは約200種類もあると言われています。
症状は通常は7~10日、長くても2週間ほどで自然に軽快していくことが多いものの、諸症状が軽快した後にせきのみが長引くこともあります。その一方、ウイルスによる炎症が上気道(鼻からのどまで)だけでなく下気道(のどより奥の気管支または肺)にまで及んだり、諸症状による体力低下が影響してさらに細菌に感染し、二次感染を起こすことでより経過が長引いたり重症化することもある点に注意が必要です。 - ・インフルエンザ
- インフルエンザウイルスによる呼吸器の急性感染症で、広い意味では風邪症候群に含まれるのですが、発熱などの症状がインフルエンザ以外のウイルスによる風邪よりも重くなることが多く、上気道だけでなく下気道にまで炎症が及ぶことがあります。
- ・新型コロナウイルス感染症
(COVID-19) - 2020年の初頭から世界的な大流行(パンデミック)が起こった呼吸器感染症です。ワクチンと治療薬が登場してパンデミックが終息し、2023年5月8日より感染症法上もインフルエンザと同じ扱いになっています。
細菌による呼吸器の感染症
細菌による呼吸器の感染症のせきは、遷延性や慢性のせきとなりやすい傾向があります。
例えば、百日咳では風邪のような症状が1〜2週間続いた後に、乾性咳嗽が長期間続きます。また、肺炎球菌やマイコプラズマ、クラミジア、インフルエンザ桿(かん)菌(きん)などの細菌による肺炎でもせきが生じます。
その他の呼吸器の病気
- ・アレルギーや気道の過敏性が関係している病気
- 喘息や咳喘息、アトピー咳嗽といった、アレルギーや気道の過敏性が関係している病気でも、症状の一つとしてせきが現れます。これらは慢性のせきの原因として多いものです。なお、喘息によるせきは、夜間から明け方にかけて激しくなりやすいという特徴があります。
関連記事
咳(せき)が止まらず、眠れない…原因と対策は?- ・後鼻漏(こうびろう)によるせき(咳)
- 鼻炎や副鼻腔炎などのために鼻汁(鼻水)の分泌が増えている状態で、鼻汁がのどへ流れるとき(後鼻漏といいます)に粘膜が刺激されて、せきが誘発されます。慢性咳嗽の原因の一つとしてみられます。
これらのほかに、せきを長引かせる呼吸器の病気として、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺がん、間質性肺炎なども挙げられます。
呼吸器以外の病気
- ・胃食道逆流症
- 胃液(胃の消化液)を含む胃の内容物が、食道を通ってのどの方にこみ上げてくる病気です。そのような逆流が起きたときの刺激でせきが生じます。また、胃液は強い酸性の液体(胃酸)のため、胃液に接した粘膜にダメージを及ぼしやすく、気道の過敏性を高めてしまうことも、この病気によってせきが出やすくなる理由です。
その他の要因
その他、花粉や粉塵・冷気の吸入、喫煙・受動喫煙、寒暖差、湿度の差、気圧変化などの環境の影響や、ストレス(心因性)、薬の副作用なども、長引くせきの原因として考えられます。
つらいせき(咳)を和らげるための対処法
急性咳嗽の多くはいわゆる風邪によるもので自然に軽快するとはいえ、できるだけ早く鎮めたいものです。
ここではまず、せきのセルフメディケーションとして「のどをいたわる」ことと「市販薬を上手に使う」という点について解説し、その後、医師の診察を受ける必要性について解説します。
のどをいたわる
- ・マスク着用
- マスクをすることで吸った空気によるのどへの刺激が和らげられ、刺激によって生じるせきが減ることを期待できます。また、のどの乾燥を防いで粘膜を保護するようにも働きます。
もちろん、周囲の人への感染リスクを下げるという意味でもマスク着用が大切です。 関連記事
マスク着用などの咳エチケット

- ・水分摂取
- のどの乾燥を防ぐために、水分をこまめに摂取しましょう。特に、たんを伴う湿性咳嗽では、水分を多く摂るとたんが柔らかくなって、排出されやすくなると言われています。
なお、せきのほかに熱があるときや食事を十分食べられないようなときには、脱水を予防するためにも、水分摂取がより重要です。 - ・加湿器や空気清浄機を使う
- 空気が乾燥していると、のどへの刺激が強くなり、せきが出やすくなります。そのため、特に冬場などの乾燥しやすい季節には、加湿器を使って湿度を調整しましょう。また、花粉やハウスダストによる刺激を避けるために、空気清浄機を使うのもよいでしょう。
市販薬を上手に使う
セルフメディケーションの二つ目の柱は、市販薬を上手に使うことです。
せきは、気道の異物を取り除くための防御反応ではあるものの、せきのために眠れなかったり、体力を消耗したり、社会生活に支障が生じているような場合には、薬でせきを鎮めることも必要です。

- ・自分に最も合った薬を選ぶ
- 市販薬購入の際は、できるだけ自分の症状に合った薬を選択することをおすすめします。
例えば、のどの違和感ぐらいであれば、炎症を抑える成分が配合されているトローチを舐めることで効果を期待できるかもしれません。また、症状がせきやたんだけの場合にはせき止めの薬を服用するとよいでしょう。
せき止め薬を服用する時は、用法・用量を守り、過剰に服用することのないように注意しましょう。

のどの痛みを伴うせき・たんに
ベンザブロック

のどの症状がつらいかぜに
ベンザブロック
それに対してせきやたんだけでなく、風邪の諸症状がある場合は風邪薬の出番となります。
風邪薬には、風邪のさまざまな症状に対応した成分が配合されていますが、中でも特につらい症状に効く成分をより充実させたものがあります。具体的には、鼻の症状によく効くタイプ、のどの症状によく効くタイプ、熱の症状によく効くタイプ、そしてせきによく効くタイプなどです。
また、せきに効く薬の成分には、中枢(脳)に働きかけて咳反射を抑える成分や、気管支を拡張する成分があります。そのほか、せきを直接抑制する成分ではありませんが、関連するものとして炎症を鎮める成分、たんを抑制する成分などが風邪薬には配合されており、間接的にせきを抑えるように働きます。
一口に風邪薬と言っても製品によって使われている成分の種類や量が異なりますし、さらに、せき以外の症状に対する成分の配合もさまざまです。風邪の症状は人それぞれなので、薬剤師や登録販売者に相談し、自分に合ったタイプを早めに服用するようにしましょう。

鼻症状が
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のどの症状が
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熱っぽさ、さむけが
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せきがつらいかぜに
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医療機関を受診する
市販の風邪薬をしばらく服用してもせきなどの症状が改善しない場合は、原因が風邪とは別の呼吸器感染症であったり、感染症ではない呼吸器の病気であったり、さらには呼吸器とは別の病気の可能性も考えられます。
そのような場合には、早めに内科、呼吸器内科、耳鼻科などの医療機関を受診しましょう。
せき(咳)が出る原因を理解して正しく対処しよう
せきの現れ方は非常に幅が広く、急性のせき、慢性のせき、たんを伴うせき、風邪のように鼻やのどなど複数の症状を伴うせきと、さまざまです。そのため原因に合わせた治療が大切になります。もし、風邪が原因のせきであれば、大半は自然に治りますが、風邪をこじらせて気管支炎や肺炎など、思わぬ大病になってしまうことも…。そうならないように、普段から規則正しい生活を心がけて、感染症対策をしっかり続けましょう。それでもせきが出て止まらないというときは、適切なセルフメディケーションと医療機関を受診し、少しでも早い回復に努めましょう。

しっかり寝て
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