知っておきたい!かぜのこと

かぜ

免疫を高める「睡眠」の重要性

健康に欠かせない睡眠。実はウイルスや細菌に対する抵抗力(免疫力)を保つためにも大切であることをご存じですか。免疫力は睡眠中に維持・強化され、疲れをとったり、風邪などの病気の予防に役立つといわれています。風邪をひいてしまった場合も、余分な体力の消費を抑え、体が本来持っている免疫力を発揮するために睡眠は欠かせません。健やかな睡眠を保つことは活力ある日常生活を送るために重要です。ここでは専門家監修のもと、快適な眠りで免疫力を高めていくためのポイントなどをご紹介します。

監修
青山・表参道睡眠ストレスクリニック院長 
中村 真樹先生

そもそも免疫って何?

免疫とは、ウイルスや細菌、寄生虫などの病原体(異物)が体に入り込んだ際、それらを見つけ出し、体から取り除く仕組みのことを指します。自分の細胞と外から入ってきた異物を見極めることによって、自分の細胞は攻撃せずに異物だけを攻撃するという性質を持っているのです。

免疫の種類と役割

免疫の種類は、大きく自然免疫と獲得免疫に分けられます。

<自然免疫>

自然免疫は生まれながらに備わっており、ウイルスや細菌、寄生虫など病原体の特徴を捉えて、病原体が体内に入ってきたら即座に攻撃を始めます。自然免疫に関わる代表的な免疫細胞は下記の通りです。

  • マクロファージ:侵入した異物を取り込んで分解する
  • 好中球(こうちゅうきゅう):細菌やカビを攻撃する
  • NK(ナチュラル・キラー)細胞:病原体に感染した細胞を破壊する

など

<獲得免疫>

獲得免疫は外から侵入した異物に反応して形成される免疫です。自然免疫で排除できなかった病原体に対し、免疫細胞を選んで感染した細胞を攻撃したり、病原体の特徴に合わせ1~2週間かけてつくった抗体を“武器”にして排除します。病原体の情報を記憶し、一度つくった抗体や選抜した免疫物質をいつでも使えるように備えることができるのも獲得免疫の特徴といえます。

代表的なものに下記があります。

  • 樹状細胞:感染したことを知らせる
  • T細胞(キラーT細胞・ヘルパーT細胞・制御性T細胞):免疫を促進・制御したり感染した細胞を攻撃したりする
  • B細胞:抗体をつくる

など

免疫と睡眠の関係

健康を保つためには、免疫機能の最前線で私たちの体を守っている自然免疫を維持し、その免疫力を高めておくことが必要です。ウイルスや細菌などの感染をきっかけに分泌される免疫物質(サイトカインというタンパク質)は睡眠を促進するとともに、睡眠自体も免疫物質(サイトカイン)の分泌を促進することが明らかになっています。風邪をひいた時によく眠ることで治りが早くなるのはこうした理由によります。十分な睡眠は免疫細胞の働きの強化につながるのです。逆に睡眠不足や睡眠の質が低下したことで、免疫力の低下や感染症の重症化リスクにつながるとの報告もあります。
たかが睡眠不足と侮らず、免疫力の維持や向上に努められるよう、十分な睡眠を心がけましょう。

睡眠不足や睡眠の質の低下と風邪との関連
  • *1Sleep. 35(1) 97-101. 2012
  • *2Sleep. 38(9) 1353–1359. 2015
  • *3Arch Intern Med. 169(1) 62-67. 2009

免疫を高める睡眠のポイント

良好な睡眠には「時間」も「質」も両方とも重要

日本の成人の睡眠時間は6時間以上8時間未満が6割を占めており、2015年に米国の全米睡眠財団の調査報告によれば、これが標準的な睡眠時間と考えられています。夜間に実際に眠ることができる時間(一晩の睡眠の量)は、25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳で約6時間と、年齢を20歳とるごとに約30分ずつ減少していきます。また、日の長い季節の夏場では睡眠時間は短くなり、日の短い季節の冬場では長くなる傾向にあります。

このように、睡眠時間は年齢や季節などによってまちまちです。また、必要な睡眠時間は個人によって異なるため、ある程度の時間が確保できていれば睡眠時間にこだわらなくて良いでしょう。むしろ重要となるのは「睡眠の質」です。

では「質の良い睡眠」とはどのようなものなのでしょうか。
4つのポイントでチェックするとわかりやすいかもしれません。

  • 寝つきが良い
  • 途中で目覚めることなく、ぐっすり眠れる
  • 目覚めがスッキリしている
  • 日中に眠気を感じない

質の良い睡眠のために!今日から工夫できること

睡眠の質を上げるためには、日頃の過ごし方が鍵となります。
具体的な方法をご紹介しますが、全てを実践するのは難しいので、できることから挑戦してみてください。

生活習慣の工夫

  • 寝る直前の入浴は避け(入眠の2~3時間前)、38~40度のお湯にゆっくりと入る。
  • 軽く汗ばむ程度の運動を習慣的に行う。
  • 就寝・起床時間は一定にして、体内時計のリズムを乱さないようにする。
  • 朝の光を浴びて、体内時計をリセットする。

食事の工夫

  • 朝食をしっかりと食べて、睡眠と覚醒のリズムにメリハリをつける。
  • 睡眠の質向上を期待できる栄養素を意識的に摂取する。
    睡眠に良いと考えられる栄養素として、エネルギーを生み出し、疲労回復に役立つビタミンB群(ビタミンB1・B2・B6)、眠りに関与するアミノ酸グリシン・トリプトファン、神経を鎮静化する働きがあるカルシウム、緊張した体を緩和させる作用のあるマグネシウムが挙げられます。バランス良く摂取することを心がけましょう。
    注:これらの栄養素の中には過剰摂取のリスクにより摂取上限量が設けられているものがあります。
  • 寝る前の食事や寝酒、カフェインは控える。
    アルコールは眠りにつくのを一時的に促すものの、睡眠が浅くなり、熟睡感が得られにくくなります。また、カフェインには覚醒作用だけでなく利尿作用もあり、夜中に尿意で目を覚ます原因になるので控えましょう。

睡眠環境の工夫

  • 寝る時は体への負担が少ない寝姿勢(自然な立ち姿勢時と比較して、腰のS字カーブのすき間が約半分・2~3cmの状態)を保ち、保温性と吸湿性・放湿性の良い寝具(掛け布団なら羽毛や羊毛素材)を使う。
  • 室温は冬は16℃前後、夏は26℃前後、湿度は50~60%程度に保つ。
  • 夜の明るすぎる光は体内時計を乱す原因になるため、照明は白っぽい昼光色ではなく、夕日色のようなやわらかい光に。

睡眠に気をつけていても、風邪をひいてしまったら。風邪薬で早めに対処を!

眠りを妨げない処方の風邪薬を活用するのも1つの方法

健康を維持するうえで、睡眠は脳や体の疲れをとり、傷ついた細胞を修復するためにも必要不可欠な休息です。風邪をひいてしまった場合も、余分な体力の消費を抑え、体が本来持っている免疫力を発揮するために睡眠は欠かせません。

しかし、風邪の代表的な症状である咳、鼻づまりなどがひどいと、寝つけない・寝苦しいなど、眠るのもひと苦労することがあります。睡眠に支障がでる場合は市販の風邪薬を活用し、症状を緩和できるよう対処しましょう。
ただ、風邪薬の中には眠気を妨げる作用がある成分を含むものがあります。例えば、カフェイン類(カフェイン・無水カフェイン・安息香酸ナトリウムカフェイン等)には、解熱鎮痛成分と一緒に働くことで痛みを和らげる作用が強まるという働きがありますが、一方で眠気を妨げてしまうことも。十分な睡眠をとり、体力を回復できるよう、就寝前は眠気を妨げる成分を含まないなど眠りに着目した風邪薬を選ぶのも良いでしょう。

参考資料:
  • 内山真編「睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版」, 2019(じほう)
  • 厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針2014 p5
    (https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf)