知っておきたい!かぜのこと

かぜ

感染症の予防 ~かぜ(風邪)シーズンやコロナ禍で意識すべきポイント~

かぜなどの感染症は、身近な体調不良の代表格です。微熱など体の不調を感じたとき、以前なら少し様子を見ている人も多かったと思いますが、今日では新型コロナウイルス感染症の不安もあり、大きな悩みの種となりえます。少しでも不安を減らすためには予防が重要です。
今回はかぜや新型コロナウイルスをはじめ、さまざまな感染症の予防にも役立つポイントを解説します。日々の感染対策に役立ててください。

監修
桜みちクリニック院長 
永武 毅先生

感染症の基本の予防法

感染症は、ウイルス・細菌などの病原体が体内に侵入・増殖することで症状を引き起こす疾患です。感染は次の3つの要因すべてがそろうことで起こるとされています。

  • 病原体(感染源):感染症を引き起こすウイルス・細菌など
  • 宿主:病原体が侵入し、増殖していくことが可能な場所(人体)
  • 感染経路:病原体が宿主の体へ侵入していくためのルート・方法

感染対策としては、これらの要因のうち1つでも取り除くことが重要で、「病原体の排除」「感染経路の遮断」「宿主の抵抗力の向上」の3つが対策の柱です。なかでも感染経路を遮断することが、感染拡大防止のために最も重視される対策です。

日常生活において、注意を要する主要な感染経路は次の3つです。

(1)接触感染および経口感染
手指・食品・器具を介して病原体が広まる
(2)飛沫感染
咳・くしゃみ・会話などに伴うしぶきによって病原体が広まる
(3)空気感染
咳・くしゃみなどによって放出される飛沫核(しぶきより小さいもの)として広まり、空中を浮遊しながら空気の流れによって飛散する

今日励行されている手洗い・消毒などの手指の衛生確保やソーシャル・ディスタンス、「3密」の回避などは、こういった感染経路の遮断を念頭に置いているものです。

手洗い

手洗いはかぜをはじめとした一般的な感染症対策において、有効な方法です。汚れとともに病原体を洗い流し、手を介した接触感染を防ぎます。

手洗いはより丁寧に、より頻回に行うことでウイルスの除去効果が高まります。石けん・ハンドソープを使って10秒間のもみ洗いをした後に流水で15秒すすいだ場合、手洗いをしないときに比べて手に残るウイルスの数は約0.01%にまで減少し、同じことをもう1回繰り返した場合(2回の手洗い)には約0.0001%にまで減少するとされています。

手洗い残存ウイルス
手洗いなし約100万個
石けんやハンドソープで
10秒もみ洗い後
流水で15秒すすぐ
1回約0.01%(数百個)
2回(繰り返す)約0.0001%(数個)

(森功次他:感染症学雑誌、80:496-500,2006 から作成)

手洗いを丁寧に行うことで十分にウイルスを除去することができるので、手洗い後はアルコール消毒液などを使用しなくても問題ないといわれています。清潔なタオルやペーパータオルでよく拭き取って乾かしましょう。
手洗いは外出先から帰ったとき、咳・くしゃみの後や鼻をかんだとき、食事の前後などに行うのがおすすめです。また、手洗いの際には図にあるような汚れの残りやすい部分に注意して洗うと良いでしょう。

辻明良「微生物学・感染制御学」メヂカルフレンド社 を参考

手指の消毒

手洗いがすぐにできない状況では、アルコール消毒液を用いた消毒も有効です。
新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスは脂質の「膜」をまとっており、アルコールはこの「膜」を壊すことによってウイルスを無毒化してくれます。
新型コロナウイルスを想定した手指の消毒液としては、濃度70%以上95%以下のエタノールが推奨されています。ただし、入手が困難な場合には濃度60%台のものでもある程度有効であるため、代用可能とされています※1
市販の消毒液を購入する際には、品質・有効性・人体への安全性が確認された「医薬品」「医薬部外品」と表示のあるものを選びましょう。手指の消毒は、医薬品や医薬部外品にのみ効能が認められているためです。また、アルコールに対して肌が過敏な人はエタノールの利用を避けましょう。

  • ※1厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う食品添加物製剤たる高濃度エタノール製品の使用について(改定(その2))」令和2年4月22日
    http://www.hospital.or.jp/pdf/15_20200422_02.pdf

うがい

うがいも一般的な感染症対策として広く採用されており、口の中を洗浄したり、うがい薬の作用でのど等を殺菌したりすることにより、かぜなどの感染症予防に役立てられています。
うがいの実施にあたっては、まずしっかりと口腔内を洗い流すよう意識しましょう。うがい薬を用いない「水うがい」でも効果が得られることがわかっています。最初に、水を口に含んでブクブクとすすぐ(水を吐き出す)うがいをし、次にあごを上にあげてガラガラするうがいを十分に行うことが理想的です。

マスク着用などの咳エチケット

咳エチケットとは、ウイルスなどの病原体を他人に感染させないよう、咳・くしゃみをする際にマスクの着用またはティッシュ、ハンカチ、用意がない場合には服の袖などで口・鼻をおさえることです。

咳エチケットでマスクの着用は非常に役立ちます。自身に病原体を取り込まないようにすること、もし感染していた場合に周囲へ病原体を拡散させないようにすること、どちらにも有効です。

Ueki, et. al.: mSphere 5(5): e00637-20, 2020.を参考

また、マスクの着用によって吸気がある程度加湿されるため、鼻粘膜の機能維持を助けることにつながると考えられます。鼻粘膜に備わっている異物の防御機能は、乾燥した空気が通過し続けることで低下が見られるからです。なお、マスクがないときは、タオルなど口を塞げるものでもある程度飛沫を防ぐことができます。
会話の際はマスク着用を心がけましょう。

外出時は重ね着で体温調節

室内外の大きな温度差は、自律神経の乱れにつながり、体温調節機能や血行のトラブルのほか、免疫機能の低下などにつながると考えられています。これらを踏まえ、寒くなる季節の外出は衣服の工夫も必要といえるでしょう。

衣服は、重ね着をすることによって保温性のアップに役立ちます。絹やウール製のものを着るようにすれば、湿度の調整もできて快適さも確保できるでしょう。また、外側に通気性の少ない衣服を重ねることで、衣服内の温められた空気を外に逃げにくくすることができます。
しかし過度な厚着は、汗をかくことによって保温力の低下や健康を損なうことにつながる恐れがあります。濡れた肌着は皮膚から熱を逃がすことを助長させるため、かえってかぜをひくなど健康被害のリスクを高める可能性があるのです。単なる厚着ではなく、脱ぎ着することによって調整がしやすい重ね着の服装を心がけると良いでしょう。

適度な湿度と換気

ウイルスへの感染対策として室内の環境、特に湿度と換気を考慮することも大切です。
空気が乾燥している環境下では、鼻や喉など気道粘膜が持つ防御機能が低下するため、ウイルスなどに感染しやすくなります。特に新型コロナウイルスは、湿度40%未満ではウイルスの生存率が高い可能性があるようです※2。かぜやインフルエンザなど他の感染症のことも考慮すると、室内では加湿器などを使って湿度50~60%に保つことが望ましいといえるでしょう。
一方で、加湿のために部屋の窓・出入り口を閉め切ったままにするのは注意が必要です。ウイルスなどの病原体が外出先で体に付着し、知らず知らずのうちに室内へ持ち帰ってしまうことも。こまめな換気を行い、対策しましょう。
台所・洗面所等の換気扇を常時稼働させることで、ある程度の換気量を確保できます。窓を開けて換気を行う場合は、対角線上にあるドアや窓を2ヶ所以上開けるか、窓が1つしかない場合は部屋のドアを開けて扇風機を窓の外に向けて運転させると効果的に換気できます。

ただし、外の気温・湿度が低い冬場などは、換気によって室内の温度・湿度が低下すると、感染のリスク増加やその他の体の不調の要因となる可能性が。窓を開けて外気を取り込む換気が難しい場合には、高性能エアフィルター(HEPAフィルター)によるろ過式の空気清浄機を併用すると、空気中のウイルス量を低減させる助けになると期待されています。

  • ※2厚生労働省「冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について」2020年11月27日付
    https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000698849.pdf

こまめな水分補給

マスクを着用していると、汗をかいたり、呼吸数や体感温度が上昇するなど体に負担をかけることがあります。喉が渇きを感じる前にこまめな水分補給を心がけましょう。
人体の水分の占める割合は平均で成人体重の約60%。そのうち約35%が血液やリンパ液等です。汗などで体内の水分が不足すると、血液をはじめとする体液の濃度が上がる、血流の循環が悪くなるなど、体のさまざまなところに影響が出てしまいます。
さらに体を病原体から守るためにも、水分補給を欠かせません。鼻や喉の粘膜には異物を排除する防御機能が備わっており、この機能は鼻腔の線毛運動と粘液の量によって支えられています。湿度が低い環境では防御機能が低下する一方、適度に水分を摂取することで、これらの機能低下が抑制され、防御機能を維持できる可能性が報告されています。水分摂取により体の水分を保つことは重要なのです。

新型コロナやかぜ(風邪)をはじめ、ウイルスや細菌に感染しにくい体作りと免疫力アップのポイント

体を冷やさない

体が冷え過ぎると免疫力の低下に繋がることがあります。
冷えの要因として、血行不良が挙げられます。血液は熱の運搬にも関わっており、血行が悪化すると「冷え」をもたらすと考えられます。体の代謝・免疫機能は、深部体温が約37℃のとき最も効率良く働くとされていますが、体温が1℃下がると体内酵素の働きが50%、基礎代謝が12%、免疫力は37%低下するという説も。
湯船にゆったりと浸かる、冷房の効いた部屋ではひざ掛けを利用するなど、体を冷やさない工夫を心がけましょう。

十分な睡眠

睡眠不足は、脳だけでなく身体のさまざまな機能に対して影響をもたらすストレスの要因に。また、慢性的な睡眠不足の人では、免疫機能が低下している報告もあります。実際、睡眠時間の短さがかぜを発症する可能性を高めるという研究もあり、1日の睡眠時間が6時間未満の人は、睡眠時間が6時間より多い人に比べてかぜを発症するリスクが高かったことが報告されています※3
睡眠時間はもちろんのこと、生活リズムや食習慣、睡眠環境を改善し、睡眠の質を上げて、心身ともにしっかり休養できるよう、努めましょう。

  • ※3Prather, et. al: Behaviorally Assessed Sleep and Susceptibility to the Common Cold. SLEEP 38(9): 1353-1359, 2015

バランスが良い食事

偏った栄養摂取や栄養不足は、体力や免疫機能の低下などにつながり、不調の要因となることも。
タンパク質は、炭水化物、脂質とともにエネルギーのもとになる栄養素の一つで、欠乏すると体力や免疫機能の低下などにつながるとされています。
また、活性酸素は免疫機能の低下などを引き起こすとされていますが、ビタミンA・ビタミンC・ビタミンEなどの抗酸化ビタミンは活性酸素の働きを抑える働きがあります。これらの栄養素をしっかり摂取し、栄養バランスを意識しましょう。

免疫の要、腸にも注目

腸は、全身の免疫細胞のうち約60%が集まる最大の免疫器官です。腸内には1000種以上・100兆個もの腸内細菌が存在しています。
常在している腸内細菌は、食べ物と一緒に入ってきた病原体を排除してくれる働きがあります。さらに、小腸の細胞から分泌される抗菌ペプチドとよばれる物質は、病原菌を排除する働きがあります。このように、腸や腸内細菌が体の健康にとって重要なものであることが判明しています。
多くの腸内細菌が生存している大腸には、分厚い粘液の壁(バリア)が備わっており、細菌が腸の組織へ接触・侵入するのを防いでいます。この粘液の分泌には酪酸菌が生み出す酪酸(らくさん)などの短鎖脂肪酸が関わっています。つまり、腸内細菌は腸自体の機能を守り、さらに全身の健康維持にも大きく貢献する存在なのです。
腸内環境を整えるためには、善玉菌のエサとなる食物繊維などを含む食材を意識的に摂取したり、発酵食品で善玉菌そのものを摂取するといった方法があります。ただし、酪酸菌を含む食品は少なく、整腸剤やサプリメントなどを活用するのも良いでしょう※4)。

  • ※4市販されている生菌整腸剤の効能は主に整腸作用であり、気道感染症など特定の疾患に対する予防・治療を目的とするものではないことに注意が必要です。

適度な運動

心身の健康に欠かせない運動。適度な運動の継続により、免疫機能に良い影響を与えることが示されています。また運動により、体力や筋力、全身持久力の改善や日常生活動作の維持改善を図ることができます。

運動には、有酸素運動やレジスタンス運動(筋力トレーニング)、ストレッチ(柔軟体操)などがあります。日常的にできる簡単なレジスタンス運動と有酸素運動もありますので、ぜひ取り入れてみてください。

  • 有酸素運動:音楽を聴きながらのステップ(エクササイズ)や、ウォーキング・ジョギングなど
  • レジスタンス運動:上体起こしや足上げ、椅子スクワット等の反復運動

コラム:口腔ケアがインフルエンザ予防に役立つ!?

インフルエンザへの感染予防として、口腔ケアの重要性に注目が集まっています。口の中にすむ細菌が出す酵素がインフルエンザウイルスの増殖に関係しているためです。
詳しく説明すると、歯周病菌が出すタンパク質分解酵素は、ウイルスの侵入を手助けしてしまいます。さらに、口の中の細菌が食道・胃を経由して腸内までたどり着き、腸内細菌のバランスを乱して病気の原因となる可能性も。また、唾液にはIgA抗体が含まれていて、ウイルスなどの異物を排除する役割を持ちますが、口が不潔な状態だと、病原体の数が多すぎるため防御しきれなくなってしまいます。ウイルスの増殖を防ぐためには、口腔内細菌を減らすこと、つまり口の中を清潔に保つことが重要です。
口腔ケアに不安がある方は、かかりつけの歯科医へ相談するのがおすすめです。

感染症は予防が大切!日頃から対策を

かぜをはじめとした感染症の予防は、手洗いやマスクの着用など日頃から実践している対策の積み重ねが重要です。この機会にいま一度見直してみてください。
コロナ禍でまだまだ油断できない日々が続きますが、病原体を寄せ付けない習慣を身につけ、予防に努めましょう。

参考資料:
  • ※1厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う食品添加物製剤たる高濃度エタノール製品の使用について(改定(その2))」令和2年4月22日
    (http://www.hospital.or.jp/pdf/15_20200422_02.pdf)
  • ※2厚生労働省:冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について,2020年11月27日付
    (https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000698849.pdf)
  • ※3Prather, et. al: Behaviorally Assessed Sleep and Susceptibility to the Common Cold. SLEEP 38(9): 1353-1359, 2015.
    (https://doi.org/10.5665/sleep.4968)
  • 厚生労働省Webサイト「新型コロナウイルス感染症について」
    (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html)
  • 厚生労働省:高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版,2019.
    (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index_00003.html)
  • 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部:新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き 第5.3版(2021年8月31日改訂).
    (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00111.html#h2_free4)
  • 「腸内細菌と健康」
    (https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html)
  • 宮本,et. al.:腸内細菌脂質代謝産物に見いだされた腸管バリア保護機能――
    腸内環境から健康増進.化学と生物55(4):278-284,2017.P.278
    (https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu.55.278)
  • 安藤朗:腸内細菌の種類と定着――その隠された臓器としての機能.
    日本内科学会雑誌104:29-34,2015.P.30
    (https://doi.org/10.2169/naika.104.29)